大阪地方裁判所 昭和53年(タ)112号 判決 1978年7月18日
主文
1 被告ら両名が昭和四七年七月二二日大阪市東区長に対する届出によりなした婚姻を取り消す。
2 被告ら両名間の長男実伸(昭和四八年五月四日生)の親権者を被告中田秋恵と定める。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文1、3項と同旨。
二 被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告と被告中田昌朗(以下被告昌朗という。)は、昭和三二年六月三日婚姻届出をした夫婦であつて、原告と同被告間には、同年九月二日長女真城子が、昭和三五年二月二二日長男昌城がそれぞれ出生した。
2 ところが、原告は、被告昌朗に欺罔されて離婚届用紙に署名捺印して手渡してあつたところ、同被告は、これを昭和四七年三月二一日大阪市阿倍野区長に提出したため、一応原告と同被告の離婚が受付けられた。
3 被告昌朗は、昭和四七年七月二二日被告中田秋恵(旧姓飯田。以下被告秋恵という。)との婚姻届を大阪市東区長に提出し、これが受理された。そして、被告ら間に昭和四八年五月四日長男実伸が出生した。
4 原告は、右離婚届用紙への署名捺印が被告昌朗の欺罔に基づくことに気付いたため、同被告に対し右離婚届を提出しないよう申入れていたところ、同被告がこれを無視して右離婚届を提出したので、右離婚は無効であるとして大阪地方裁判所に対し離婚無効確認の訴を提起したところ、昭和五〇年六月一〇日原告と同被告との協議離婚が無効であることを確認する旨の原告勝訴の判決が言渡された。そこで、右被告は、同判決に対し大阪高等裁判所に控訴したが、昭和五二年一月二八日控訴は棄却され、同被告は、さらに最高裁判所に上告したが、同年九月二六日上告も棄却され、同日原告勝訴の前記判決が確定した。
5 以上のとおり、原告と被告昌朗間の離婚が無効である以上、被告ら両名間の前記婚姻は民法七三二条に違反する重婚であるから、原告は、その取消を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1の事実を認める。
2 同2の事実のうち、被告昌朗が原告との離婚届を大阪市阿倍野区長に提出し、これが受理されたことを認めるが、その余は否認する。
3 同3の事実を認める。
4 同4の事実のうち、原告主張の訴が提起され、その主張の各判決が言渡され、昭和五二年九月二六日原告と被告昌朗間の離婚が無効である旨の判決が確定したことを認めるが、その余は否認する。
5 同5の主張を争う。
第三 証拠関係(省略)
理由
一 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、第三号証の一ないし三によると、つぎの事実を認めることができる。
1 原告と被告昌朗は、昭和三二年六月三日婚姻届出をした夫婦であつて、原告と同被告間には同年九月二日長女真城子が、昭和三五年二月二二日長男昌城がそれぞれ出生した。
2 被告昌朗は、昭和四七年三月二一日原告との離婚届を大阪市阿倍野区長に提出し受理された。
3 被告らは、同年七月二二日婚姻届を同市東区長に提出して受理され、被告ら間に昭和四八年五月四日長男実伸が出生した。
4 原告は、離婚届用紙に署名捺印して被告昌朗に渡したのは同被告に欺罔されたからであつて、その後に同被告の欺罔行為に気付いたので、同年二月二二日同被告に対し離婚の意思及び離婚届出の委託を撤回したにもかかわらず、同被告がこれを無視して右離婚届を提出したもので、右離婚は無効であると主張して、昭和四八年ころ大阪地方裁判所に対し離婚無効確認の訴を提起したところ(同庁昭和四八年(タ)第一五八号事件)、昭和五〇年六月一〇日原告の右主張を認めて、原告と同被告の協議離婚が無効であることを確認する旨の判決が言渡された。そこで、右被告は、同判決に対し大阪高等裁判所に控訴したが(同庁昭和五〇年(ネ)第一一五四号事件)、昭和五二年一月二八日控訴棄却の判決が言渡されたので、さらに最高裁判所に上告したが(同庁昭和五二年(オ)第五九二号事件)、同年九月二六日上告棄却の判決がなされ、同日前記原告勝訴の判決が確定した。
以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠がない。
二 前記認定事実によると、被告ら両名の婚姻は、被告昌朗が原告と婚姻中に配偶者のある身分にもかかわらず重ねて被告秋恵との間になされたもので、民法七四四条、七三二条により取り消されるべきものであることが明らかであるから、これが取消を求める原告の請求は理由がある。
そして、被告ら間の長男実伸が現在五歳の幼児であることに照らすと、右婚姻取消後の実伸の親権者を被告秋恵と定めるのが相当である。
三 よつて、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、被告ら間の長男実伸の親権者を被告秋恵と定め、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。